時代は完全に次世代のエコカーへと移行していると見せかけて、世界の主要自動車グループはいわゆるアメリカンマッスルカー的な「スーパースポーツセダン」の開発に熱心だったりする。しかもその中心にいるのが、エコで堅実なイメージがあるトヨタとVWのプレミアムブランドである、レクサスとアウディだったりする。
アメリカのスペシャリティカーは今なおV8が主流だ。400万円以下で新車で買えるV8搭載車があるというのも驚きで、アメリカのクルマ文化は非常に奥深い。アメリカのV8セダンはビッグ3からそれぞれ比較的廉価で発売されている。GMグループからは「シボレーカマロ」と「キャデラックCTS-V」の2グレード。どちらも近年の進化が著しくアメリカから世界へと今後飛び出していく勢いを感じる。クライスラーはダッジとSRTの2ブランドから「チャージャー」と「300」が発売されている。GMよりもさらに廉価ということもあり日本でもアメリカ車好きを中心に浸透しつつある。フォードはV8モデルの拡散にはやや消極的なようで、マスタングシリーズのみに採用している。V8はスポーツ仕様と割り切っているようで、乗用車ベースのスペシャリティカーながら、純正スポーツカー不在のブランドを背負って立つ性能を持っていて、コルベットやバイパーと互角という圧倒的な運動性能が魅力だ。
北米市場にはさらに、これらとは価格帯がやや異なるが、V8やV12(W12)を搭載した欧州の最上級クラスのセダンも輸入されている。マセラティ、ベントレー、ロールス、アストンマーティンに加えて、マイバッハ廃止で最上級モデルをさらにパワーアップしているメルセデスは元々北米でのステイタスが高い。ここに殴り込みをかけているのが、VWグループのアウディで従来のイメージを変えてしまうような12気筒モデルを加えた最上級セダンA8を投入している。このクルマはすでに中国では他のブランドより一歩先んじた存在になっているのだとか・・・。欧州では未曾有のクルマ不況もあり、各社ともこの北米の最上級車市場で勝負をかけている姿勢が色濃くでている。
スポーティなアメリカ勢とハイソサイエティの欧州勢に加えて、欧州発のスポーティモデルとしてBMWのMシリーズとポルシェのパナメーラも北米を主眼に開発されている。これら海外勢が主導権を握る北米の高級車市場で、V8の投入が事実上不可能なインフィニティ(日産)とアキュラ(ホンダ)は現状ではその下のサブプレミアム市場に甘んじている。日本勢で唯一これらの最上級プレミアムクラスに参戦しているのがレクサスだ。フラッグシップのLSに搭載されているV8+HVで400psを絞り出す妥協のないユニットは十分に競争力がある。すでに単独のブランドとして販売台数ではメルセデスやBMWを射程圏内に収めており、日本発プレミアムブランドとしては後発だったにも関わらず、異例の躍進を遂げていて、現在では断トツで先頭を走っている。
レクサスは現在ラグジュアリーなV8+HVに加えて、スポーティなV8ユニットを使う次世代型Fシリーズを準備しているようだ。従来からもIS-Fがあったが、シャシーがそのパワーに十分に対応しきれず、電子制御デバイスが大幅に介入される設定で、ほぼ直線の道路以外ではハンドルを切れば、空転が発生して「即フルカット」される仕様だった。現行のGS・ISのシャシーは全方向での剛性アップでV8(5L)の性能をより生かせるクルマとして登場していて、新型シャシー投入の主眼は現行IS-Fの難点を大幅に改善した新しいFシリーズでさらなるブランド力向上だと思われる。この次世代のFシリーズをGSとISのクーペ版(RC)に設定するらしい。
現行GS350Fスポの重量が1690kgなので、これをベースにV8に載せ変えれば、特別な軽量設計がされない限り1700kg台後半になるだろう。IS350Fスポは1640kgなので、こちらもV8なら1700kg突破が確実だが、専用のクーペボディでトヨタが全力で軽量化に取り組めば、先代IS-F並みの1690kgに抑えることもできるのではないかという気がする。この30~40kgの軽量化がどれほどセールスに影響するかはやや不明だが、顧客はV8のパワー感そのものに投資するのだと考えれば、軽量化こそがその魅了を最大限高める要素なのは間違いない。
乗用車ベースのクルマにフェラーリ458イタリア(V8で1380kg)やマクラーレンMP4(V8で1440kg)と同等のパワーウエイトレシオを求めるのはさすがに酷だ。しかしこれらのスーパースポーツと、1900kg以上の重量がありもはや時代遅れと揶揄されるM5やE63AMGとの間の領域でどれだけバランス良くクルマを仕上げられるかが、今後のV8プレミアムスポーツセダンの存在価値だと思われる。ちょっと大雑把だが4.7mクラスの3BOX車ならV8を積んで1800kg以下で80点、1700kg以下で90点、1600kg以下なら100点満点といったところだろうか。
現行モデルで採点すると、1800kg以下がC63AMG、1700kg以下がM3(E92)とIS-Fとフォードマスタングの3台、1600kg以下はいない。マセラティ、ポルシェ、アウディ(S6~8、RS5)では該当なしだった。1700kg以下なら理論的にはアストンマーティンV8ヴァンテージに匹敵する運動性能ということになる。レクサスがIS-FでベンチマークしたM3の次期モデルは派生するM4も含めて直6ターボに移行するので、Fシリーズの当面のライバルはマスタングとC63AMGになるようだ。BMWはV8軽量化競争で白旗を挙げてしまったが、トヨタが果たしてどれだけ最新の軽量化技術を投入してくるのか注目だ。
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